畜産資源学分野
准教授:熊谷 元(E-306, TEL:075-753-6358)
助教:大石 風人(E-303, TEL:075-753-6365)
わたしたちは、家畜が生産する肉や乳を日常的に食しています。 また、途上国では、今も家畜は役用として耕作や運搬用に使われ、その糞尿は燃料や肥料として有効に利用されています。本研究室では、分析方法として、従来の実験室での実験に加えて、フィールド調査、コンピュータシミュレーション、衛星データの利用などの新しいツールを積極的に活用して、既存の生物学分野から経済学、農村社会学、文化人類学までの学際的総合研究の幅広い視点から畜産資源に関するさまざまな問題を解決するための研究を行っています。ミクロな視点とマクロな視点の両面から動物生産学を総合的に学ぶことを目的としています。
畜産資源の研究ターゲットと関連分野
畜産資源学分野では、1つの専門研究をより深めるというよりはむしろ、家畜生産に関わるさまざまな分野を 統合して 総合的視野から研究を実施する学際研究を行っています。 生物学のみならず、幅広く経済学や社会学なども学びます。 場合によっては、コンピュータも利用してモデリングやシミュレーションも行います。
総合学際研究の推進
主な研究テーマ
動物生産システムの総合的評価
肉牛や乳牛、豚や羊の生産における家畜(産業動物)の遺伝的能力や栄養条件、管理条件や経済条件に 関するさまざまな研究領域からの情報やデータを収集して、それらを統合して総合的な生産システムの評価を行います。生産システムのモデリングやシミュレーションを行います。このような研究は、動物遺伝育種学、動物栄養学、動物繁殖学、産肉科学などさまざまな領域の知識を勉強できます。
これは、草地での放牧を行った際の牛の生産と物質のフローを示すものです。このような条件下では、牛のみを見るのではなく、草地や土壌などを含む生態全体を研究対象とします。矢印は物質の流れを表し、それぞれの関係は、数学式によって結ばれます。このようなモデルを用いてシュミレーションを行うことによって、草木の成長と家畜の成長を予測することができます。
アジアの熱帯地域における在来家畜とその生産システムの評価
《ネパールにおける研究》 《タイにおける研究》 《中国における研究》
未利用資源の飼料化に関する研究
反芻家畜を利用した生産システムにおいては、直接利用できない草資源や農業副産物を栄養価の高い乳や肉などの畜産物に変換するところに大きな価値があります。近年、資源循環型社会の確立に向けたさまざまなとり組みに関心が集まり、飼料利用についてもその技術開発が求められています。国内外の各地域を対象に、当該地域で産出する飼料資源に含まれる機能性物質の種類と量、生体活性、動物に対する給与の効果について体系的、網羅的に検討し、機能性を備えた最適な自給飼料の開発を行っています。
動物生産にともなう環境問題に関する研究
最近、経済効率のみを重視した規模拡大と専業化によって、家畜からのふん尿による環境汚染が重大な問題となっており、その解決が最重要な研究課題となっています。本研究室では、畜産環境問題に対して、聞き取り調査やアンケート調査、ふん尿中の窒素やリンなどを減少させる飼料設計など、生物実験、フィールド調査、システム分析、LCA(ライフサイクルアセスメント)など、さまざまな分析ツールを用いることで動物生産由来の環境問題解決へのアプローチを試みています。また、最近では、これらの研究をさらに拡張し、稲作や飼料稲生産と肉用牛生産のような複合生産システムの栄養素の循環を把握する研究も行っています。
哺乳動物の成長とエネルギー利用効率の一般法則の策定に関する研究
ネズミなどの小動物からウシや水牛などの大型動物に至るまでの成長とエネルギー利用に関する一般法則を導く研究です。この研究は、文献からのデータをもとに、一般システム理論の考え方を用いて一般法則を導き、種を超えた一般理論の構築を狙ったもので、世界的にも注目されている研究です。
ネズミとゾウのように、動物の体の大きさは大小さまざま。そのため、成長の様子をグラフに表したとき、縦軸を体重、横軸を日齢とすると、その目盛りはネズミとゾウとでは全く違うものになります。 しかし、体重、日齢をそれぞれ、成熟時、つまり大人になったときの体重で補整することにより、 さまざまな動物の成長の様子を上図のようにひとつのグラフ上に表すことができるようになります。 このような補整を利用し、さまざまな動物のエネルギー要求量やその利用効率を分析し比較する研究を行っています。
放牧牛のエネルギー消費量推定に関する研究
近年、わが国では、特に中山間地域における耕作放棄地面積の増加が大きな問題となっており、その問題を解決するための有効な手段のひとつとして、耕作放棄地におけるウシの放牧が期待されています。ここで、放牧牛は通常の舎飼い牛よりも放牧行動によってエネルギー消費量が増加することが知られています。しかしながら、その増加量を推定する方法は現在まで確立されていません。本研究室はその推定法として、GPSやGISを用いた歩行データによる推定のほか、心拍測定による推定、加速度センサーを用いた動的体加速(ODBA)による推定などを検討し、最適な放牧牛エネルギー消費量推定法の確立を目指しています。
(左: 装置を装着した放牧牛 右: 放牧風景)
家畜を中心とした農村調査
この研究はまず、農村に入り、農家を調査しながら問題点を探り、その解決法を見つけようとするものです。これまでは堆肥の利用、飼料稲の導入要因、合鴨農法の導入のメリットなどに関する研究を行ってきました。また、最近では獣医さんと協力して農家の疾病対策に関する疫学的な研究も手がけています。
(農家調査の様子)